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「そりゃ人ごみの音が聞こえますから。分かりました、今大通りですよね? だったら道の駅で落ち合いましょう。大丈夫ですか?」
特に異論はないといった風にレイカは答える。道の駅まではここから十分やそこらで着くことができるし、レイカが降りたであろうバス停からも同じくらいの距離のはずだ。
「分かった。それじゃあ今から向かう」
「了解です」
そうレイカは電話を切った。切られてからレイカに小学生の女の子が一人でいたら報告するようにと言っておくべきだったと私は思った。それとなく風貌を伝えておけば良かったなと後悔しながらも、そもそもバス停から道の駅までは民家も少ないし、人もほとんど来ないようなところなのだから大丈夫かとも考えていた。
とりあえず、合流しよう。
繁華街の復路を途中棄権し、私は振り向いて反対方向に歩き出した。もちろん黄色のシャツと白いスカートを探しながら。
「レイカちゃん? いや見てないよ? というかもうこっちに来てるの?」
出羽さんが働いている姿を見るのはいつ以来だっけ。そんな事を考えながら私は道の駅でレイカを待っていた。しかし電話を終えてから二十分たっても一向にお店の前に彼女は現れなかった。ひょっとしたらお店の中にいるのかもと入ってみたが、やっぱりそんなことはなかったという今だ。出羽さんは自らの手で、道の駅の土産品コーナーにありがちな菓子の類を品出ししている。うん、やっぱり思い出せないくらい前になる、この人が働いているところを見るのは。
「ついさっき着いたらしいんです、それで、ここで待ち合わせをしてるんですけど、さっぱりで……」
レイカの携帯電話にも何度か掛けてみたけれど、しかし繋がることはなく、私は動くに動けなくなってしまった。なかなか不味いことになってしまったとスマートフォンの画面をじっと見つめる。もちろんそれだけでは事態はなにも変わらなかったけれど、なにか伝わるものがあればレイカなら電話をかけてくるんじゃないかと思ったのだ。根拠は特にない。
「まあ店の中ならいくらでも待ってくれていても大丈夫だけど、なにかあったのかもしれないし、心配だね」
当たり障りのないことを返す出羽さんに、同じくスタンダードな返球を投げようかと思ったタイミングで、再び私のスマートフォンが振動を始める。
「と、とりあえずありがとうございました。今度買い物していきます!」
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