晴に恵まれて

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「黄色いTシャツに、白いスカート、あとリュックだかナップザックだかを背負ってるはずなんだけど……」 「あー、ナップザックだと思いますよ、リュックじゃなくて。青色ですよね?」  うん? まあどっちでも良いのだけど。 「そうだっけ、とにかくそういう子を見かけたら私に連絡して」 「はい、私の隣にいますよ」 「ああ、そうなんだ。じゃあ一安心だ」 「はーい、じゃあその子とセンパイの部屋にいますねー」  再び不通音。今日何度目だろうかスマートフォンの画面を見つめる。足を止めて、五月の厳しい紫外線の真っ只中、まばらと言えど観光客も闊歩する道の駅の駐車場の隅、人目も憚らず私はつい画面に向かって一叫びしてしまう。 「はあ!?」 「あ、お帰りなさいセンパイ、速かったですね」  そりゃ速足にもなるだろうに。言葉の代わりに不満顔を玄関で出迎えてくれたレイカにプレゼントする。もっとも、季節変わって黒いパーカーに上着を鞍替えしたレイカは、そんなもの意に介してはいないようだったけれど。  今年の初め、私の家の合鍵を渡したままだったため、レイカは当然のように私のワンルームアパートの一階の部屋へ女の子を任意同行してきていたのだ。まさかそんなことになるとは思っていなかったけれど、レイカが来る頃だろうと昨日掃除をしておいて良かった。自分でいうのも変だが、壁にかかった湖と女性の絵が美しすぎて浮いている 「で、さっき言ってた女の子はどこ?」  レイカは声を出さずに苦笑いをすると、自分の背後、つまりはワンルームの部屋の方を指差した。奥を覗くと、座椅子にちょこんと小さな女の子が座っていて、テーブル越しに私たちのやり取りを監視しているようだった。確かに黄色いTシャツだ。その上に仏頂面と呼ぶにふさわしい不満顔を生やしている。髪はお下げが二つ、可愛らしく良く似合っていた。 「どういう経緯でここにあの子はいるの?」  会話の内容が聞かれないように耳打ち。 「バス停から移動してたときに、あの子が一人で向かい側のバス停に立ってたんです。周りに大人の姿も無かったんで声をかけたら一人で帰るって聞かなくてですね。でもチケットも買ってないみたいなんで、ひとまずここに連れて来ようと思ったんです。旅行に来たみたいなんですけど、宿には戻らないの一点張りだったもんで」  レイカも同じくらいのボリュームでひそひそと喋る。
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