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確認をとる。まず間違いなくそうなんだろうけれど、外れていたら怖いと思い予防線を張ってしまいたくなるくらいには、その子の眉にシワが寄っていたのだ。
「……はい」
目も合わせないで彼は答える。なににそこまで苛立っているのか、私には皆目見当がつかない。からこそ少し引きたくなるのだけれど、私は自分の中のなにかを振り絞って首を突っ込む。
「もしかして迷子とか?」
もう敬語を使えば良いのかどうなのかも分からなくなってきたことを自覚しながら、私はもう少し話を進める。
「……ええ」
一々問答のたびに彼は「間」を必要としているようで、その「間」になにを考えているのだろうと思うと、なんだか心が痛い。
「なら、私も協力しますよ。人手は多いほうが良いでしょうし」
営業スマイルの応用で心の痛みと目の前の彼に抵抗する。それに、迷子と聞いたら黙ってはおけない。なにせ水辺と森が多い町なのだし、見つけるのは早い方が絶対に良い。
「……いえ、別にそこまで大事にしていただかなくても大丈夫です。妹はそう遠くまで行っていないと思いますし」
妹という新情報をさらりと流して、私は彼に食い下がる。
「なにかあってからじゃ取り返しがつきません。どの辺りでいなくなったとか、いつからとか、教えてください、なにか分かるかもしれません」
少年はこちらに強い力で睨みつける。睨まれたというのは被害妄想かもしれないけれど、彼の眼ときつく結ばれた唇が私にそう思わせたのだろうなと思う。そのまましばらく私の問いは彼に受け取られることなく、店の壁にしっとりと染み込んでいった。
「……はあ」
長い時間をかけて引き出された言葉はずいぶんとあっけないもので、特に意味の見出せるものではなかった。彼としては迷惑な大人に捕まった程度にしか今の状況は捉えられていないのかもしれない。
なにか彼に言葉を投げた方が良いのかと思い口を開こうとした瞬間、少年は短く言葉を放った。
「じゃあできれば、妹を探すのを手伝ってくれませんか?」
目はこちらを向いていないが、声はこちらに向けられている。私のお節介に許可がおりたのだ。
「うん、じゃあ一先ずお名前を教えてもらっても良いかな?」
レンズの向こうの瞳がまぶたに覆われ、開かれてしばらく、彼ははっきりと名前を告げた。
「橘翔……です」
良くできましたとばかりに、私は笑顔で頷いた。
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