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「私は山中鈴音。カケル君、じゃあ探しに行こう。妹さんを」
カケル君の雰囲気からなんとなく察してはいたけれど、彼はゴールデンウィークの旅行でやってきた観光客だった。余所者……という言い方は好きではないし、また私自身が地元人ではないのだから、そもそもで言う資格はないのだけれど、やっぱりこの町に住んでいるかどうかという判断は一瞬でついてしまうものだ。不思議なことに、直感のような説明のつかない感覚で私は観光客を見抜けてしまうのだ。まるで姿かたちが似通った動物達でも、しっかりと親や兄弟を見分けられるようにして、私達もなにか言い表せない感覚器官でこの町の住人を見分けているのかもしれない。
近くの民宿に泊まりながら観光をするつもりでいたんだろうけれど、一日目の今日、さっそく家族のうち最年少の妹さんが姿を消してしまったそうだ。妹さんは小学二年生で、彼は中学三年生なのだという。七歳差の兄妹、少しシンパシーを感じてしまったのは、私に六つ年上のお兄ちゃんがいるという理由に他ならない。
「気がついたらいなくなってたの?」
「メモリーオブツリー」の入り口に張り紙をしながら、背後に立つ少年に私は尋ねる。しっかりとその言葉は、私の口から大回りして真後ろにまで疑問を持っていく。
「いえ、あの……」
彼を見ているこの数分、口ごもったり、言葉がスムーズに出てくることの方が珍しいとはいえ、この声の中には今までにない動揺が含まれていることが、私の背中に引っかかった。
「ん? どうしたの?」
一時閉店、迷子を探しています。簡潔な事実だけ書かれている紙を見てから私はカケル君に向き直る。
「……あの」
「うん」
急かしているように思われるだろうか、いや、事実なのだし良いだろう。しかしなるべく気を遣って、私は表情をやわらかく持ち上げる。
「実は、その」
早く言いなさいな。言葉にはしない。
「妹と少し、喧嘩のようになって……」
あー。心と身体の声が完全に重なる。
「ケンカしてそのまま別れて、戻ってこないって感じで良いのかな?」
私から視線をそらし、そっぽを向いた彼が首で肯定の合図。
「親御さんは知ってるの?」
そのまま一頷き。
「ご両親も今探しているの? 妹さんのことを」
「母が」
三文字の回答を返すと、カケル君はまた静かになった。
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