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さてどうしたものだろう。色々と気になるのだけれど、あまり首を突っ込んでは嫌な思いをさせてしまうのではないかと、私は次の言葉を慎重に選ぶ。
とても良く晴れに恵まれた午後、青い風が店先に舞った。その間に、とにかく進めないといけない会話の内容を選定して、私は軽く咳払いをした。
「うん、じゃあお母さんがどの辺りを探しているとか分かる?」
結局私は「気になった」部分には触れずに話を進めた。一々聞いていてもしょうがない。
「……あっちの湖沿いを探してると思います」
彼が指さした方向は、私の家とは反対方向で、城島さんのボードがある桟橋の方だった。
「よし、じゃあカケル君も湖沿いをお願い、私は繁華街の方を探してみる」
「はい」
歩き出そうとする彼を私は少し引き止める。さっきもこんな風に引き止めたなと、心の中で苦笑しながら。
「ちょっと待って、それっぽい子を見つけたら電話するから連絡先を教えてくれるかな?」
え、ああ、はい。どうしてか戸惑いを全面に出しながら彼は受け答える。店の中にいた時と打って変わって、外に出てからのカケル君は年相応というか、色々と慣れていなさそうな表情を良くしている。
私がスマートフォンの電話番号を彼に教え、それからワンコールだけ彼の携帯電話が私の着信音を鳴らした後、しっかりとそれぞれの持ち場へと歩き出した。
「じゃあ見つけたら連絡するね」
エンジニアブーツでアスファルトを踏みしめて、私は町の中に入って行く。やや驚きを残してこちらを眺めているカケル君も、私が足音をたて始めると別の方向へと歩いていった。
町の繁華街を歩いていると、人通りの多さにやや戸惑った。私の住んでいる町は小さいところとはいえ、全ての住民が互いの名前を覚えられるほどの田舎という訳ではない。都心から高速バス一本で来れる観光地なのだから、ある程度の人口が住んでいる町なのだ。別荘街であるということもあり、冬の時期はともかくとして、夏や今のような連休中ともなればしっかり人が波打つ通りが作られることも珍しくはないのだ。
繁華街を二つに分ける、町に唯一通っている片側二車線道路わきの歩道には、家族連れや老夫婦を主とした集団が立ち並ぶ店の外に並んだり、辺りを眺め回しながら歩いていたりとしていた。
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