序章、そして終幕

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愛してください。 彼の願いは簡単でいて、難しいものだった。 愛してください。 また、重く軽い空気が、彼の唇の隙間から溢れた。 愛とは、何でしょう。 今度は自身の言葉を噛み締めるように、一言一言を放つ。 愛とは、何でしょう。 次は、自身に問うように、自らの胸を抉るように。 私は分からない、愛しかたも、愛されかたも、愛される方法も、愛する方法も、愛が、普通が分からない。 彼の中で言葉が、感情のダムが決壊し、彼が思っていた、今までずっと抱えてた感情が雫となって露になる。 分からないのです、全く、私自身、人自身、何も、全て、分からないのです。 手で顔を覆い、消え入りそうな声で、分からない分からない、と言う彼は子供のようで、触れれば彼そのものも壊れてしまいそうだった。 こんな私は、人なのでしょうか、人であっていいんでしょうか。私は、人ではなく落ちた犬畜生などではないでしょうか。 はっ、と顔を上げ、畏怖の色を浮かべた彼は酷く混乱でもしているのか、自分が人ではないと喚き出す。 嗚呼、否、犬であればどれだけ善かっただろうか。、主に、忠実であれば良いのだから。 先程犬畜生と言っておきながら、次は犬が良いと言う彼は悲しみに打ちひしがれたものから一転、何やら狂喜じみたものさえも感じる。 あぁっ、悲しい、何故私は人間に生まれてしまったのだろうか、誰もそれを望んではいないと言うのに。 感情のダムが決壊してしまった彼は、止まるものも止まるところもなく話し続ける。 いっそ、死んでしまおうか。 荒れ狂う心のまま、そう呟いて彼は涙を流した。 そして彼は涙を拭うと何時もの通り何食わぬ顔して笑い、言う。 愛しています。
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