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【2011年、三年の卒業式前日】
「稔ちゃんてさー、本当わかりやすいよね」
「な、何がです……?」
学校からの帰り道、稲嶺さんがそんなことを言う。とぼけてみせるが、その言葉の意図がわからないほど私はバカでもなかった。
「好きなんでしょ! 湊ちゃんのこと」
「な、なななな、ち、違いますよ! 俺は……」
「わかるよ、だって私稔ちゃんの幼馴染だもの。好きな人にはちゃんと伝えないとダメだよ!」
そう笑ってこちらに振り返った彼女。その体を、狂ったようにスピードを上げたバイクが跳ね飛ばした。自分の数センチ前で跳ね飛ばされた彼女は、宙を舞ったかと思うとゴロゴロと道路を転がる。
「あ……え……?」
呆然としているとバイクは唸りを上げて逃げるように発進する。とにかく救急車、いや警察……息があるか確認……考えてる場合ではない。考えてはいる場合ではないはずなのに手は震えて心臓が高鳴り、体は動かなかった。
「よう秋山、なにぼーっと突っ立ってんだよ」
そんな声で自分の意識が戻ってきた。そして、彼の目が彼女を捉える。笑みは驚愕に変わり、俺を突き飛ばして彼女に駆け寄る。
そして、事は起こってしまった。急激な感情の高ぶりによる能力の暴走。物質の硬化と破壊を司る能力は暴走し、彼女を砕いた。まるで慟哭のような声にならない叫び声が響く。
だめだ、どうしたら、俺は、俺が――俺のせいだ。俺が動けなかったから。俺がさっさと救急車を手配しなかったから。いやそれじゃ間に合わない。俺が庇わなかったから。俺が少しでも彼女の前を歩いていれば。いつまでたっても後悔の念は消えなかった。
◆
2044年。再会は突然だった。あの路地で、花を手向けて何か祈っているようで。自分も同じ行動をしにきたはずなのに、硬直して動けなくなる。彼が姿をくらませてからずっと探していた。いや、違う。彼は姿をくらましてなどいなかった。俺が会いたくなかっただけだ。俺が――。
「よう、秋山。なにぼーっと突っ立ってんだよ」
あの時と一字一句同じ言葉。心なしか声色は明るく、俺はようやく「浅間……さん……?」と声を出した。
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