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「一人で洗えるか?」
「す、すみません……。腕が上がらなくて、その、お願い……出来ますか?」
「ああ、それくらい問題無い」
「……ありがとうございます」
彼女は俺に頼む事が申し訳ないと思っている。これは仕草で判断出来た。そして俺は彼女の頼みごとを潔く聞き受けることにより感謝される。もう彼女の中で俺は信頼や愛情の対象になっているのかもしれないな。
不思議なものだ。人間の心理ってのは面白くもあるし、恐ろしいものでもある。
「あ、あの――」
俺が彼女を洗いながら思考に耽っていると、突然彼女に話しかけられた。
「どうした?」
「私と愛し合ってくれませんか……? 貴方の為に何かしたいんです」
どうやら「ストックホルム症候群」によって俺に愛情が芽生えていたようだ。俺は何も考えずに彼女を抱きしめ愛し合う。暫くの間、お互い愛を噛み締めていると再び彼女が俺にお願いしてきた。
「あの、雰囲気がしらけてしまいますが私のお願いを聞いてくれますか?」
「何だい?」
彼女は何を言うのか俺には皆目見当がつかない。
「じ、実は私……互いの首を締めながら愛し合うのが……す、好きなんです」
こいつは驚いた。趣向がぶっとんでいるな、この女。だが、俺は既に彼女を心から愛してしまっていた。なので、惚れた彼女のお願いは無碍出来ないので肯定をする。そして次第に互いの首に手を掛け再度愛し合う。
「ぐっ……これ…は、中々……つ、らいな」
徐々に呼吸困難になり苦しくなる。俺は惚れた彼女の首を絞める事に抵抗があって、力はそんなに入れていない。だが、彼女は遠慮なく俺の首を絞める。
「ねぇ、知って……いますか?」
「っ、な、なに……を……だ?」
「ストックホルム症候群と似た症候群があるのですよ……?」
――背筋が凍った。彼女は気付いていたんだ。俺が彼女にストックホルム症候群をしようとしたことが。酸欠で思考が鈍りながらもどうして気付いたのだと考える。それに似た症候群とは、何なのだと俺は考えた。
「知りたいですか? 似たような症候群――それは『リマ症候群』ですよ」
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