犯人……岸沼 勝

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 ――もう駄目だ。  俺はそう呟きながらなけなしの金で買った煙草を吸う。そして鬱な気持ちを吐き出すかのように肺に含んだ煙を一気に口から出す。だが、そんなことをしても全く俺の気持ちは晴れる事は無い。  どうしてこうなったんだ。俺の何が悪かったんだ。騙される側の人間が全て悪いのか。世の中は腐ってやがる。もう嫌だ。ふざけるなと、畜生と怒りと負の感情が俺の心を支配して行った。 「馬鹿な男が女に騙されたんだ……だったら男が馬鹿な女を騙してやる」  覚悟は決めた。二十年働いてた仕事もクビになった。もう失う物はない。  そもそも三十五歳で仕事をクビにさせられてその先に未来はあるのか? いや、そんなものはない。あると言える奴がいたら、そいつこそ本当の馬鹿だと俺は思う。両親も既に他界していて実の兄貴にも見放された。金だってもう小銭程度しかない。  耳を澄まさなくてもうるさいぐらいの通行している人間を見下す様に眺め、ターゲットを決める。狙い目は十代後半ぐらいの女だな。二十代になると余計な知識をもっていやがるし、十歳以下は論外だ。俺、ロリコンじゃねぇし。  ……いや、三十五歳の俺がターゲットに十代の女にする。これも実はロリコンになるんじゃね? と、考えが過ったが直ぐに頭を振り違うと否定した。偶々ターゲットにしやすいのが十代後半なんだ、他意はない。まぁ、若い女が好みじゃないのかと問われれば肯定することも吝かではないけど。  あー、どっかに上玉はいないかね。きっと今の俺の目は犯罪者そのものだろうな。直ぐ様に目の色を変えた。所謂営業モードである。社畜だった俺が身に付けさせられた切り替え能力だ。社畜だった事が懐かしい。今思えば社畜時代も悪くなかったかも知れない。  喉元過ぎれば熱さを忘れるって奴か。……いや、意味が違うか。  残り最後の煙草に手にしようとした瞬間、俺の目線が離せなくなった。居た。ターゲットはあの女意外考えられない。その女は十八ぐらいで、身長は百六十あるかないか、容姿は優れているスレンダータイプの女だった。その女を決めた理由は俺が騙された女に何処か似ているから、だから復讐の相手にはもってこいの相手だ。 「――あれがストックホルム症候群にさせるターゲットだ」
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