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ターゲットを尾行しながら携帯で再度ストックホルム症候群の事を調べなおす。
俺は犯罪の事を調べている内にストックホルム症候群というのを知った。何でも精神医学用語のひとつで、誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長時間閉鎖的な空間で過ごすような場合、犯人に対して同情や好意、連帯意識などの依存的な感情を抱くようになることを指すらしい。携帯でブックマークしたページで再度確認した。
自分が殺させるかもしれないという極度の恐怖に追い込まれた状況で、犯人に水や食糧を与えられたりトイレに行くことを許されると人質はその行為に感謝の念を抱いて犯人に好意的な印象を持つことらしい。何というか洗脳に近い気がするな。
「うーむ、何だか心が痛むが仕方ない。……やるしかないんだ」
怨むなら俺を騙した元カノを恨んでくれよ。いかんいかん、そんな甘い考えが駄目だな。俺はこれから犯罪を犯すんだ。自身に罪は無いとか恨まないでくれとか痴がましいにも程がある。
ターゲットの女を尾行していると住んでいるアパートに辿り着く。少し意外であった。十八か十九才くらいで独り暮らしをしているのか。しかもマンションとかではなく、少し年季のある古いアパートに住んでいるということは貧乏暮らしをしているということであろう。俺が騙された元カノと違って凄く好感が持てるな。
「――よし、やるか」
人は自分の住む鍵を開けて、部屋に中に入った瞬間が一番油断する。やっと居心地が良い自分だけの空間に辿り着けるのだから当然といえば当然。俺は音を立てずに足を速める。鍵を入れ、回す、そして扉を開け中に――入った。
「ごめん。少し邪魔するね?」
ドアを閉めようとする瞬間に身体を強引にドアに捻じ込み笑顔で話しかけながら侵入する。
「え? な、何をす――」
もし俺が笑顔でなく凶悪な表情であればターゲットは直ぐに悲鳴を上げるだろう。しかし、相手が優しそうな笑顔で邪魔すると言われたらどうであろうか? 敵意があるのか。何かの販売員であろうか。と、混乱して数秒間硬直する。その瞬間で十分だ。
「本当にごめんね。こんなことしたくないんだけど……静かにしてくれるかな?」
ドアを閉めようとしたのに開けられてターゲットの身体は必然的に此方に向く。なので俺は右手で軽くターゲットの首を絞めた。
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