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「っ!」
唯でさえ混乱している者の首を絞められることで、更に混乱をする。しかし、正確に思考が二秒程で働き抵抗しようとするだろう。だが、俺は左手に持っている火の点いたままの煙草をターゲットの左目に近付ける。
「あれ? 今回の標的が随分と可愛いな。ボスには勿体ないな」
この台詞を吐く事で俺にはボスが居る事と、ボスに献上される為にこのような恐怖に直面しているのだと情報を与える。恐怖を与えながらの情報は中々拭えない。自らの首を手に掛けられて、眼中近くに火の点いたままの煙草。この二つの恐怖は簡単に拭えるものではない。
「静かにしてくれればこれ以上危害を加えるつもりはないよ。部屋に招き入れてくれるかな? もし、招いてくれるなら右目を二回連続で瞬きして。」
「……っ!」
ターゲットは三秒程硬直した後に右目で二回瞬きをする。よし、成功だ。思考を働いて自分の意思で決めたのだとターゲットは思っているだろう。しかし、それは間違いだ。俺は思考や論理を司る左脳に近い左目を煙草を近付けることにより、相手の思考を鈍らせ洗脳に近いことをしたのだ。
「ごめんね。暫く邪魔させてもらうよ」
突き付けられた煙草を自分の口に持っていきながら、首を絞める力を弱める。正直首を絞めていた右手に力を入れていないのだが、首とは最も敏感な部分なので微弱でも力を緩めても判断できる。煙草を捨てずに自分の口に運んだ理由は、自分に当てられた凶器――又は恐怖の元はまだ消えないで相手が持っているのだと思わせる為。そして少しでも抵抗すると自分の眼球が潰れてしまうのだと思わせる為である。
「本当にごめんね。……左目大丈夫だったかい? 」
左手でドアを閉め、施錠する。勿論相手から眼を離さずにだ。優しげに心から心配している表情に変えて台詞を吐く。俺は不用意に首に掛けた右手を離した。そして態と相手の顔を近づけるようにゆっくりと開いたままの右手を移動させる。
「……っ」
相手は怖くなり眼を瞑る。まぁ、当然だな。そうなるように態としたわけだし。
「怖かったよね? 本当にごめんね」
俺は優しく相手の髪を撫でる。そう、優しくだ。
「……え?」
怖かったことを言い聞かせるように「怖かったよね」と呟く。混乱している自分は怖かったのだと更に自分に言い聞かせる為だ。もう殆ど洗脳だな、これ。
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