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「……本当はこんなことをしたくないんだけどね。ボスに抵抗したら俺も、人質にされている妹も殺されちゃうからさ」
俺は悪い人だけど悪い人じゃない。人質がいるからこのような犯行をしているのだと思わせた。完全な悪役では相手をコントロールするのには時間が掛かってしまうらしい。しかし、このように悪役だけど悪役ではないと思わせる事によって短時間で相手を制約することができる。
後は簡単だ。監禁して相手が限界の空腹になるまで食糧は与えず、そして同時に風呂に入っていない身体を洗ってやる。たったこれだけである。
「取り敢えず、この睡眠薬を飲んでくれるかな? 場所を移動させるだけだからさ」
「……眠らせてからボスって人の場所に連れて行くつもりですか?」
成程、当然の考え方だな。けど――。
「それはしないよ。そもそも、それだったらこんな風に聞かないだろう? 暴行して気絶させてから連れて行くしね。……そっちの方が良かったかな?」
「……っ」
「それとも無理矢理飲むかい? 結構辛いよ? 鼻を塞がれ睡眠薬と水を強引に口に入れて、無理矢理に口を閉じさせられる。経験したことあるけどお勧めはしないよ」
「わ、わかりました。……じ、自分で飲みます」
「それが良いよ。俺も無理矢理はしたくないし」
具体例で説明することにより選択を選んでいるようで選ばせる。これも洗脳の一種だ。粉末状の睡眠薬と小さな水が入っているペットボトルを手渡す。そして必ずきちんと飲んだことを確認する。カプセル型では口内に隠す事も出来るから粉末が良い。
「っ!」
「あ、睡眠薬って苦いよね。大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です」
自分も睡眠薬を飲んだ経験者という情報も与えておく。勿論相手との共通点を深める為だ。服用してから相手を縛らずに簡単な世間話から会話を始め、所々架空で作った妹との共通点があると認識させた。
次第に相手はうつらうつらと身体が揺れてきた。どうやら睡眠薬が効いてきたようだ。
「眠たくなってきたかい? 次に眼が覚めた時は身体が少し不自由になっちゃうけど……ごめんね」
精神がぼんやりとしているときに伝える。それ以外に伝えると抵抗しようとする意志が働き、余計な考えをさせてしまうのだ。だからこの瞬間に伝えるのがベストであった。
「……は…………い」
――よし、成功だ。
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