◆運命の瞬間

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―――― 足を触られるなんて ――――― もう、頭の中が真っ白。 今まで生きてきた中で、足を触られるなんて。 「嫌・・・」 と言うのが精一杯。 でも、痛くて身をよじろうにもよじれない。 痛いのも、恥ずかしいのも何もかもが 心の中でいっぱいになって、息が詰まる。 長い指先が私の足首を包み込む。 すこし、ひんやりとした感じがした。 「うち、近くだからおいで」 もう、何がなんだか分からない。 転んで、足をすりむいて、挫いて、 さらに見知らぬおじさんかと思っていたら 色白の細い腕の殿方に、足を触られ、 『うちにおいで』と声を掛けられる。 不信感、不安感、逃げられない絶望感。 このまま消え入りたい。 もう今朝は寝過ごしてしまった時点で、無理をしないで 「具合が悪いので、欠勤します」と嘘をついて お布団のぬくもりに誘われるまま、睡眠をむさぼって おけばよかったと、後悔。 「大丈夫です。本当に大丈夫ですから。  親切なそのお気持ちだけで十分です。  ありがとうございます。本当に、本当に」 「ほら、目の前だから」 その色白の細い腕の殿方が目の前の小さな木の板を指さしていた。
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