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「春樹っ!」
間に合わなかった。
春樹はもう、冷たくなっていた。
病室に入らず、僕は屋上へ行った。
そこへ行かなければならない気がした。
雨はまだ、降り続いていた。
僕はまた、雨に打たれていた。
雨に濡れた街を見下ろす。
見える建物すべて、春樹との思い出が詰まっていた。
あの駄菓子屋で、夏はいつもアイスを買って帰った。
あそこのビルの前で、中学生と間違われて春樹が補導されかけた。
あそこも、あっちも…
幼い頃からずっと一緒だった。
2人とも、彼女も作らずにバカやっていた。
そんな日常が日常じゃなかった。
ホントな特別で、かけがえのない毎日だった。
それにやっと、気づけた。
「遅すぎるよな…」
溢れ出した涙を止めることもできず、声が出ないくらい泣き叫んだ。
涙も声も、雨がすべて流してくれる。
あぁ、何度目の雨だろう。
春樹にとっての最期の雨は…
いつもなら、写真を撮っていたはずだった。
雨の日しか撮ろうとしなかった。
風景しか撮ろうとしなかった。
理由を聞くと、いつも笑って応えてくれた。
「雨に濡れた空間って素敵だよね。
全部が洗い流されてて。
もう一回、はじめに戻ったみたいでしょ?」
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