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「終電、くるね」
「うん」
「それじゃあ、またね」
轟音と風を連れて、電車がホームに滑り込んでくる。それを見ながら、もう会わないんだろうなと、心のどこかでそう思った。
彼女が上京してからそろそろ一年。「変わらないでね」「変わらないよ」なんて会話をしたのが懐かしい。彼女は、変わった。ショックではなかった。衝撃はなかった。そんなことは、分かっていて僕は、あの時彼女を見送ったのだ。鮮やかなあの時。一緒にいれば胸が弾んだあの時。帰ってこない。帰っては、来ないのだ。
今では弾まない会話。三泊の予定を切り上げて、彼女は二泊で帰っていく。どこかつまらなさを感じる空気の中で、終電までいてくれただけでも感謝するべきなのだと思う。
電車の油圧システムで、二両のドアが同時に開く。彼女はそのドアにすぐさま飛び乗った。名残惜しさは、ないのだろう。
「また、電話するね」
頷く。それは嘘だと分かっているけれど、僕は頷く。
「それじゃあ」
そう言って軽く手を上げる。ジリリと、鳴り始めるベル。ドアが閉まってから、窓越しの彼女も手を上げた。
「バイバイ」
僕の声は、動き始めた列車の駆動音の紛れて、消えた。離れていく彼女を追いかけることもなく、ただ空虚な視線で。幾許もしない内に彼女は見えなくなって、僕は電車の背中を眺めている。
さよなら。青春。
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