虚ろな熱帯魚

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モーター音。 水槽内の水を浄化する濾過装置。 太陽光代わりの白熱灯。 自然を演出した600×300×360。 60?の中で精一杯優雅に振る舞う熱帯魚。 夏休み、蒸し暑い教室に僕以外の人はいない。運動部の声が蝉噪に混ざって煩わしい。 学校から家が近い、という理由で夏休み期間の魚の餌やりを任された僕は、この10日間は真面目に仕事をこなしてきた。けれど。 教室でアクアリウムを始めよう。 5月に誰かがそう言った。僕は内心反対だったけれど、クラスの雰囲気は是だった。 リラックス効果があるとか、生物の飼育を通して内面的に成長するとか、そんなことを理由に、アクアリウムが始められた訳だけど。 「君たちは、そんなことのために生まれたんじゃないだろう?」 計画された水流の中を漂う哀れな熱帯魚たち。 蝉の声は何処か遠く、モーター音だけがリアル。 そして、僕はコンセントを引き抜いた。 モーター音が止まる。 そこに広がる静寂が、自由の証だった。
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