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カップ麺の蕎麦にお湯を注いでから、百均で買った砂時計をひっくり返す。
12月31日、時刻は23時20分頃。少し狂った俺の生活リズムの晩飯は、いつもこんくらいだ。
ガキの頃は、年越し蕎麦が嫌いだった。
別に蕎麦自体が嫌いだったわけじゃない。実家が蕎麦屋だったから、食い慣れていた。嫌だった理由は、クリスマスから冬休みが明けるまでの特別感がそこで切れるような気がしたから。
砂は見る間に落ちていく。
蕎麦が食えなくなったのは突然だった。
交通事故だ。助かったのは俺だけ。「たまには家族サービス」なんていう気紛れを起こした親父は、本当にバカだ。
時間は決して止まらない。
事故からもう十年とちょっと。悲しいことも、嬉しいことも、色んなことがあった。俺は大人になったし、家族の記憶も今は少し曖昧。
そして、砂は落ち切った。
カップ麺の蓋を開ける。品のないつゆの香りが鼻をくすぐる。
けれど、口に運んだ蕎麦は、まだ少し涙の味がした。
(改行、空白含めず400文字)
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