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この部屋へ来るものへ告ぐ。
・菓子食った手でゲームすんな。
・勝手に俺の布団で寝んな。
・彼女連れ込むな。
・俺の飯を勝手に食うな。
・大便はここのトイレでするな。
・消耗品の使用禁止。
・電気ガス水道の金はきっちり払え。
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そう書いてある張り紙以外、特筆すべき点がない部屋のベッドで、初夏の朝日が射し込む中、その男は──、犬山 木苗は寝ていた。
そのベッドの下には健全とは少々言い難い本が隠されていることも追記しておく。
──ジリリリ
犬山が昨晩、試行錯誤して設定した目覚まし時計が鳴り響く。
あまりの音量に犬山は目を覚ますが、布団を顔まで被り、また眠り始めた。
全くだらしない男である。
犬山が目を覚ましたのはそれから約十分後のことであった。
人より少ない腹筋を用いて上半身を持ち上げ、寝ぼけ眼で、未だにまだ元気に鳴り響いていた目覚まし時計を止めた。
時刻は八時時四十分。
そして犬山は呟くのだ。
「……大学、行きたくない。」
犬山がこの言葉を呟いたのにはれっきとした理由がある。
犬山は所謂、大学ぼっちだからだ。
高校時代に夢にまで見た大学生活で失敗したのだ。
自分は大学内で浮いた存在になっている、と犬山自身が気付いたときの絶望の表情は変顔の枠を飛び越えていた。
嫌そうな顔をしつつも犬山はカーテンを開け初夏の日差しを浴びた。
そして覚束無い足取りで洗面所へ向かう。
大学生として独り暮らしをしている犬山の自宅は1K5畳のアパートだ。
広いとは言い難いがこの部屋を犬山は大変気に入っている。
理由としては窓を開けるとすぐそこに桜が有るからだ。
ここへ越してすぐの時の、犬山の喜びは言うまでもない。
約十四ヶ月前にはあんなに喜んだ桜は今では夏らしく青々と葉をつけている。
そんな桜を犬山は見て、あの時を思い出すのだ。
まさに青春、呼んで字のごとく青春、人呼んで青春を謳歌していたあの時を。
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