敗北者の歌

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 俺の音楽で世界を変える。全人類の共通言語で、人の心を打つんだ。  そんな風に、思っていた。  人目につかないビルディング、地下三階、オールスタンディングで50人入るかどうかのライブハウス、人はまばら。  そこで張り上げる俺の歌声。  P.A.は欠伸して、また一人客は帰った。  音楽は世界を変えるのかもしれない。人の心を打つ音楽も、あるのかもしれない。  けれど、それを為せるのは、俺の音楽じゃなかった。  一曲終わって、最後の客が帰る。 「お客さん、いないけど残る二曲どうする? やんの?」  P.A.が面倒くさそうな表情で、そう言った。  俺には才能がない。誰にも何も、届けられない。 「……やります」  そう返した声は、突きつけられた現実で震える。  それでも、俺にはこれしかなかった。  ギターを鳴らす。コードはD7。  P.A.さえも離席した。  俺は声を張り上げる。  何も変わらない。何も変わらないけれど。  ここから世界を変えていく。
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