0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の音楽で世界を変える。全人類の共通言語で、人の心を打つんだ。
そんな風に、思っていた。
人目につかないビルディング、地下三階、オールスタンディングで50人入るかどうかのライブハウス、人はまばら。
そこで張り上げる俺の歌声。
P.A.は欠伸して、また一人客は帰った。
音楽は世界を変えるのかもしれない。人の心を打つ音楽も、あるのかもしれない。
けれど、それを為せるのは、俺の音楽じゃなかった。
一曲終わって、最後の客が帰る。
「お客さん、いないけど残る二曲どうする? やんの?」
P.A.が面倒くさそうな表情で、そう言った。
俺には才能がない。誰にも何も、届けられない。
「……やります」
そう返した声は、突きつけられた現実で震える。
それでも、俺にはこれしかなかった。
ギターを鳴らす。コードはD7。
P.A.さえも離席した。
俺は声を張り上げる。
何も変わらない。何も変わらないけれど。
ここから世界を変えていく。
最初のコメントを投稿しよう!