終末世界とダンスホール

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119の腐乱した死体が半径254メートルのホールに転がっている。 そして、壁から床から天井まで。全てが真白なこのホールに394度目のG線上のアリアが流れ始める。 それを聞いた俺は異臭を放つ死体の一つにそっと口づけをした。 死体から口を離してぺろりと唇を舐めれば、腐った肉の味がした。 あぁ、なんて愛おしい。 世界が終わった「大寒波」の日。俺と彼女はなんとかこの避難所に逃げ込んだ。 けれど、あれから394日。外部との連絡は全く取れず、そして俺以外の人間は死んでしまった。 この避難所の暖房機能も少しずつ壊れ始め、3日前には完全に停止した。 ただ白いだけの天井に向かって、息を吐いた。 この254メートルに縛られ踊り続けてはならない。 行かなくては。 純白の壁から突き出す無機質な取っ手を回す。体重をかけやっと少し空いた扉の隙間から摂氏マイナス148度の風が吹き込む。 394日間にも渡って閉ざされ続けた 厳重な扉は歪な悲鳴を上げながら完全に開いた。 灰色の空。純白の地平線。ただひたすらにそれだった。 背後からはG線上のアリアが聞こえる。 一歩。雪の中に足を踏み出す。 一歩。また、一歩。 徐々に、徐々に。 G線上のアリアがフェードアウトしていく。 そして、548歩目には聞こえなくなった。
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