Not_Lost

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このビル街を目指して真っ直ぐに落ちてくるあの鮮やか過ぎるほど鮮やかな赤色の巨大隕石はあと何分で落ちてくるのだろう? それは地球滅亡へのカウントダウン。 ある老人は祈りを捧げた。 ある女性は恋人を抱擁した。 ある男性は泣き叫んだ。 最後の瞬間をそれぞれがそれぞれに過ごしている。 カラカラと。 音が聞こえる。 金属バットを引き摺る音が。 隕石の接近に伴い、地表の温度も上がってくる。 ある学者は絶望の表情のまま。 ある医者は患者の生命維持装置を止めた。 ある政治家は核シェルターの中へ逃げ込んでいる。 カラカラと。 音が聞こえる。 金属バットを引き摺る音が。 金属バットを引き摺っている少女は急ぎもせずにゆっくりとそこへ向かっている。 周囲のビルより高い近代を象徴するそのビル。 巨大隕石が落下するゼロ地点。 誰もが諦め、絶望で立ち止まる中、少女はそのビルの階段を登り始める。 金属バットが階段にぶつかる一定のリズムが諦めの静寂の中に響き渡る。 隕石が大気を切り裂く重低音が徐々に、大きく。 それでもなお、少女の刻むリズムは聞こえている。 その甲高い音は世界に鳴り響く。人々は耳を澄ませる。 そして、その音は鳴り止む。 少女がゼロ地点の屋上に辿り着いたのだ。 少女は二つの目で隕石を見据えた。 迫り来るそれに対して垂直に立ち、足は肩幅に開く。 バットを左手に持ち、真っ直ぐに隕石へと向ける。 ホームランポーズだ。 そして、少女はゆっくりとバットを構えた。 諦めるのは、まだ早い。
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