気付けば……

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「待て!! 邪悪なる一族よ!! 我らが聖の魔法で消え去れい!」 アクトの前に、聖なる光を持つエルフ族の女が魔王族の下僕であるゴブリン族の子供を2匹追いかけている。 「なんだ、あれ? この辺りにエルフ族? まあいいや。おーい! エルフ族の女! ちょっとこっちにこい!」 アクトの低く他人の命の灯火を消してしまうかのような声色が辺りの澄みきった空気を振動させてエルフにまで届く。 ただ、一言発声しただけで空気が淀み、汚染されたかのような錯覚を辺りにいた生命達は感じたことだろう。 「ひっ……! ……ば、ばかな。私が気圧された……?」 「は? いいから来いよ。早く」 エルフ族の女は本能的に危険を感じてかゴブリン達から即座に目を反らし、アクトを注視している。 アクトから滲み出る後ろにあるはずの景色が歪むほどの禍々しいオーラ。 背にした想像もできない重量だろうバカデカイ剣。 巨大な岩をイメージさせる硬質な翼。 どれをとっても禍々しいオーラを放つあの生命体に勝てる要素がない。 瞬間、エルフの女の体が止まった。 アクトが何か呪縛の魔法を使ったわけではない。 死への直接的なイメージが体の筋肉を硬直させて動けなくなったのだろう。 ゴブリン達は過ごしやすい空気を察したのか、アクトの後ろに回ってエルフ族の女から隠れた。 「なんだ? 動けねぇのか? 仕方がねぇな。俺が行くから待ってろ」 アクトがエルフの女と比べると巨大な体を揺らして一歩一歩近づいていく。 「くっ、くっ、来るな……来るな! 来るなぁぁああ!!」 大きな声を出して威嚇するが、体はまだ動かないようだ。 女のできることは大きな声を上げることだけになってしまったように見える。 エルフ族の女は悔しさと絶望からだろう涙を流し、強く食い縛った口から血が滴っている。
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