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既に世界の当然の常識として、魔王族は滅びたとなっている。
悪行の限りを尽くしてきた魔王族に神の天罰が下ったとして、人間族の教科書に乗り、歴史の一頁になるほどの有名な出来事だった。
ただ、その魔王達の亡骸はどこにもなく、滅ぼした聖なる者達も一緒に消えてしまったがために、魔王族の容姿を知るものは少ない。
ただ、魔王族に関する事は全て口伝や書物にて、各種族に伝わる情報のみである。
そしてエルフ族に伝わっていた魔王族に関する情報は、汚染。
そこに存在するだけで周りの空気、土地、生物、何から何まで汚染するといわれていた。
エルフの女はアクトを目の前にするまでそれらは全て尾びれに背びれが付いた、誇張された伝承だと思っていたことだろう。
ただ、彼女がそれを目の前にするまでは。
アクトの周りは明らかに汚染されている。
踏んだ植物がどういう影響によるものなのか、枯れるではなく、腐敗してしまっている。
オーラによるものか、からだの周りの空気は歪み、近づく度に呼吸がしづらくなっていくのを感じている。
死。
アクトからは滲み出る死のイメージしか出てこない。
ただ、エルフ族に伝わる伝承で一部違う部分がある。
魔王族とはその強さ、カリスマ性、プライドにより装備を纏わない。
だが、アクトはこれでもかというほど凶悪な防具に身を包み、一振りで肉塊すら残らなくなるのではないかと思えるほどの力を感じる巨大な剣を背に着けている。
魔王族は滅んだ。
そういう思いが手を伸ばせば届く距離まで近づいてきたアクトに対して、エルフ族の女に口が利けるだけの勇気を与えたのかもしれない。
「な、な……何者だ!」
「ん? 俺か? アクトだ。魔王族の、な!」
何故か得意気なアクトの顔を青ざめた顔で見上げる事しかエルフ族の女にはできない。
何かが気に触ってしまって命が無くなる可能性が常につきまとうのだ。
例えアクトが冗談で魔王族だと言っていたとして、バカにできない力を放っている生物を目の前に一笑に付す事など例え歴史で滅んだとされていたとしても誰ができようか。
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