気付けば……

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「マオ様! マオ様!」 「マオ様! マオ様!」 アクトの後ろに隠れたゴブリン族の二人が嬉しそうに跳び跳ねてアクトを称える。 声帯はあるものの、舌や唇が発達していないために魔王という事ができないでいるが、アクトの事を魔王様と呼びたいのは伝わってくる。 「で、ちょっと聞きたいんだけど」 アクトは聞きたい事が山ほどあることに気づいて言葉を止めた。 本来なら魔王族の眷属であるはずのゴブリンに聞けばいいが、アクトは元々女好きでさらには意志疎通が難しいゴブリンに話しかける気など毛頭無いようだ。 何から聞くべきなのかを頭の中で整理している。 「こんなところで何してるんだ? ここは魔王族の土地だぞ?」 「ゴ、ゴブリン……退治だ」 エルフの女は絞り出すように声を出す。 緊張しているのがアクトにも伝わっている。 別に殺すつもりなど無いのでなんとか相手を安心させようと思考をフル回転させているようだ。 うつむいて何かを必死に考えていたアクトは、何かを思い付いたのかガバッ! と凄い早さで顔を上げてエルフ族の女を見つめた。 「ゴブリンか! ほら、やる!」 後ろで跳び跳ねていたゴブリンを2匹ともアクトの爪で切り裂き、エルフ族の女に差し出した。 女は意味がわからず、目を白黒させて生き絶えたゴブリンの亡骸を見つめる。 その目に宿る光は絶望。 自分もこうなる運命なのかと、予行練習でも見せられた気持ちでいっぱいになっている。 アクトも自分の気持ちが伝わらなかったのを感じていた。 何か間違えた事をしただろうかという気持ちが顔に現れている。 「あ! そうだ! 名前を聞いてなかった! さっきも言ったが俺はアクト! お前はなんて名前だ?」 「……! ……!」 何かをしゃべろうとしているのだろうが、ゴブリンの亡骸を目の前にした恐怖で言葉がでなくなってしまったようだ。 発言する最後の勇気をも奪われてしまった。 悔しさで、このまま果てるのかという思いで、目から涙が止まらなくなっている。
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