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「抱きてぇー!!」
『おい! ニート! 今何してんだ?』
突然、男の頭に響く別の男の声。
魔法によって飛ばされたその声は、何の力もない人間であれば声だけで絶命させられるほど力強く、恐怖心が沸き上がる低い声だ。
大声を上げた直後だったからか体を一瞬ビクつかせ、男は舌打ちと共に何かの魔法を唱える。
「黄から成り立つは土の力」
手を地面へあて、魔力を注ぐ。
「なんだよじじい。息子の事をニートなんて呼んでんじゃねぇよ! クソヤロウ!」
『お前こそ親の事をクソヤロウなどとよくも言えたもんだ! フハハハハハ! まあ良いわ。アクト、そろそろ天使の集落の一つでも落としたかと思ってな。どうだ? ニートは辞めたのか?』
「あ? 辞めるか! 俺は働くのが嫌いなんだよ。なんで一々律儀に働かにゃならん。寝てエルフのねーちゃんを見てた方が楽しいよ!」
大声で怒鳴り上げるアクトと呼ばれた男の声もまた恐ろしく、力無き者はその声を聞くだけで恐怖に震え上がり立ちすくむだろう。
アクトの親が絞り出すように声を出す。
『むむむ。確かにエルフの体は魅力的だが……。そういう事ではなくだな……まあ、いい。お前は潜在的には私たち夫婦にも匹敵する才能を持っていると――』
「まーたその話かよ? もういいだろ? そんな親バカ発言を200年以上前から言ってんだぜ? 俺はこうなんだから、才能なんかねぇんだよ!」
本当に何度もその話を聞いているのだろう。
苛立たしげに地面を叩き、床に散らばったゴミが中空へ舞う。
振動で天井の土がアクトの上へ降り注ぎ、気だるそうに背中から生えている立派な真っ黒いコウモリを思わせる羽で払い落とす。
『……まあ、もし何かあれば連絡してこい。母さんもお前の顔を100年近く見ていないと嘆いていたぞ? 時々は父さん達のダンジョンにも顔を出しなさい』
「……ああ、わかったわかった。来年あたりに顔を出すよ。もういいだろ? じゃあな!」
一方的に魔力を断って通話を切った。
そして、何をするでもなく、ダークエルフの映る空中へ視線を戻して何か考え込むように口を結んだ。
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