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「なんじゃこれーーー!!!!!」
外に出たアクトの第一声。
アクトの知る世界はそこになかった。
神聖なる何者かに滅ぼされた大地がそこにある。
植物が生い茂り、人間世界でよく見かける小さく意思を持たない下等生物が飛び回り、流れる川は透き通るほどに綺麗で浄化されている。
汚染され、植物など先ずは生えないあの大地はどこに行ったのか。
地割れがあって渇ききり、焼けた暗黒の大地はどこに行ったのか。
「な、なんじゃこれーーー!!!!!」
現実を受け入れる事ができないアクトはもう一度力の限り叫んだ。
清らかなものに抵抗を覚える魔王族であるアクトは澄んだ空気が肺に刺さるのだろう。
激しく咳き込み、その強靭な顔には眉間へシワがよっている。
アクトのよく知る汚れたあの空気は、ここにはない。
「はぁ……はぁ……ま、こういうこともあるか」
アクトの性格は非常に適当のようだ。
何かを突き止めようとすることはない。
現状、こうなっているのだ。
何が原因だろうと、今、こうなっているのだ。
しかし、魔王族の眷属の姿すら見えない。
ドワーフや天使の頭を持って歩くダークエルフや地から顔を出した地底族の者。
地を焼く火族の堕者。地面を破壊する地族の堕者。
空気を汚す空族の堕者。水を汚染する水族の堕者。
誰もいない。
空に飛び回るドラゴンの姿も見えない。
「え、え~……なんなんだ本当に」
アクトは大きくため息を吐いた。
澄みわたる空気に、若干むせながら口を開く。
「ま、知り合いもいないし、いいか」
変わり者のアクトに友人はいないようだった。
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