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「歌舞伎町の違法風俗一斉摘発で保護された女の子に、うちの管内の特異家出人に該当しそうな子がいるんです。確認に行かせてください」 辰巳諒子(たつみ りょうこ)警部補は、上司である重野課長のデスクの前に立った。手には警視庁本部保安課からファックスされた用紙を持っている。 「やっぱりそうか。辰巳、ご両親も乗せて行くか?」  重野はチェックしていた書類から目もあげずに答えた。最初から彼女がそう言い出すのを知っていたような口振りだった。  重野は窓を背にして、一番奥の独立したデスクにかけていた。四十代なかば、着古した背広にそろそろベテランの貫禄がただよう。手元でチェックしているのは、最近多発している高齢者を狙った訪問詐欺の注意喚起のためのフライヤーだ。来月、防犯月間として管内の各自治会で配ってもらうことになっている。  北沢東警察署の三階、生活安全課の部屋だった。あと二人課員がいるが、今は一階受付でご近所トラブルの申し立ての聴取に席をはずしている。  辰巳は公務員試験に合格し、警察学校を出て今年で五年目になる。優秀な同期はすでに警部、役職なら係長あたりに昇進していたが、彼女の働きぶりに焦りはみられなかった。 「一応電話できいてみます。ほぼ本人で間違いないとは思うんですが」 一時もじっとしていられない様子で、机の島にすえつけられている電話の受話器をとる。書類の積まれた四つのデスクのちょうど真ん中にあった。 「いい嗅覚してるよなあ」 ふと重野が言った。辰巳は手をとめる。
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