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「組織的にやってるという、根拠があるのか」
「わかりません。でも被害者に特徴を感じます。比較的高学歴で家庭のしつけが厳しく、世間ずれしていない箱入り娘タイプです」
「被害者? 被害届けは出てないんだろう」
「私は、被害者だと思っています。まだ事件になっていないだけです」
辰巳の声に力がこもる。その憤りから目をそむけるように、重野はフライヤーに視線を戻した。
「どこでもある話だと思うがな。ちょっとしたことで今の生活が嫌になった女の子が、あとさき考えずに家を飛び出して、結局身をおとすっていう。嫌な話ではあるが、誰かが仕組んでるなんて少し飛躍があるだろう」
これが地方だったならば、「都会に行く」という名目だけで、立派な家出理由になるだろう。いい仕事、ステータスのある男、夢の実現、才能をみいだされる可能性。そんな都会神話は、いまだ地方には根強く残っている。しかし今回の事案は、みな実家が、都内もしくは近郊にある女性ばかりだった。わざわざ家出する理由がみあたらない。
思慮の浅い若者による、無責任な行動の果ての自業自得。みんながそう思うから今まで放置されてきたのだ。そう辰巳は思った。そしてそれは、仕組んでいる人間の思うつぼなのかもしれない、とも。
「仮に、これが組織的なものだという証拠がつかめたら、本店の組織犯罪対策課が動くぞ」
重野が言いたいのは、その裏に外国人犯罪者グループや広域指定暴力団の影が見えたら、ということだろう。
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