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「上へ話あげてもらえるんですか」 「苦労してもお前の手柄にはならない、という話をしてるんだ。我々には我々のするべきことがある。余計なことをすると組織の調和を乱す」 ドラマで見る上司役のようなわざとらしく嫌味っぽい重野の言葉は、辰巳の胸にはまったく響かなかった。言っている本人の声が、苦い諦観を含んでいるからだ。  私はまだあきらめない、と辰巳は思う。まだ見えない悪党のしっぽを、なんとかしてつかみたい。たとえ、この無機質に割りふられた組織というシステムの中でも。  辰巳の中には、飼い慣らされていない野犬のような正義感が牙を隠していた。 「これ、君のであってる?」  捜査員がチャック付のビニール袋に入った携帯電話を差しだすと、松下さやかはおびえた顔のまま、こっくりとうなずいた。鑑識課のジャンパーを着た男は、その場で手元の書類にボールペンを走らせる。  ピンク色の手帳型ケースに包まれた携帯電話が、真空パックのようになっていた。ケースにはじゃらじゃらとアクリルキーホルダーがぶら下がっている。彼女が熱心に集めたであろうラメの入ったキーホルダーは、みんなゲームのキャラクターものだった。  辰巳が特異家出人として捜索を求めた、松下さやかだった。母親を署の車に乗せて新宿署まで迎えにいくと、入れ違いに病院に向かったと説明された。保護された当時、自分のしていたことが警察に摘発されたと知って、かなりショックを受けていたらしい。
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