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辰巳は北沢東署の生活安全課に捜索の依頼がもちこまれた時から、家族が持参した写真で彼女を見ていた。
お嬢様学校で有名な女子短期大学の門の前で、入学式の看板の横に立つ姿だ。満開の桜を思わせる淡いピンクのスーツで華やかに微笑んでいる。パーマをかけた柔らかな内巻きの髪。小柄で、リスやハムスターを連想させる丸い目の童顔の女の子だった。
その後、彼女の家にも出向き、部屋になにか手掛かりとなるものが残されていないか、丹念に本棚やタンスを調べたりもした。高校時代のアルバムも見た。
生身のさやかと初めて対面したのは、夜の救急病院の談話室だった。産婦人科の診察と感染症検査のための採血。外傷はなし、妊娠反応は陰性。感染症検査の詳しい結果は一ヶ月後に出るという。
母親に左腕をしっかりとつかまれて、談話室の椅子に腰掛けた彼女は、生気の蒸発したドライフラワーのようだった。ふけばとぶような頼りない存在感だ。とんでいかないように、母親が必死でおさえている。
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