ABCランサーズ

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「速報!」 二年五組の教室に生徒がかけこんできた。体育の教科係だ。野球で鍛えた腕が、ぱあん、といい音をさせて扉を閉めると、しめきった教室の窓ガラスが一斉に揺れた。  始業前のざわめきがそれで一瞬中断される。男子生徒は教壇にあがり、黒板に一枚の紙をマグネットでとめた。 「クラスマッチのチーム分け、決まったぞ!」 教室の視線が一瞬集中する。階段をかけのぼってきた生徒は得意げな顔をしたまま、足を開き膝に手をついて肩で息をしている。 「クラスマッチ? いつだっけ?」 「ずっと先だよ。夏休みの後」 「なにやんだっけ」 「このまえ決めたじゃん、男子も女子もバレーボールでしょ」  ニュース性が薄いと判断した大半の学生は、再びそれぞれのしていることに戻った。グループでの談笑、携帯ゲーム、開いたままの漫画雑誌。夏休み前のうわついた空気が再びその場を支配した。
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