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もともと人と話すのが苦手なのか、無表情で陰気な雰囲気が人を遠ざけているのか、もはや周囲も判断できない。異様に細い体の両脇で、ワイシャツの余った身幅が透けている。
透はのれんをくぐるように、指先でレンズの前の前髪をかきわけて教壇のほうを見た。表情は淡然としていて、とくに憤るわけでもない。こんなとき、あからさまに存在を迷惑がられることに彼は、もう慣れてしまっていた。
単純に運動神経の問題ではなく、自分のコミュニケーション能力のなさが招いている事態なのだと、どこかで自覚してもいる。しかし、今さら自分のキャラや立ち居置を変えようという気力もない。
この教室カーストの底辺でいい。クラスの何かがうまくいかないことの原因として、陰口を言われているくらいでちょうどいい。
(僕は誰かの期待に応えられるような人間じゃないから)
すぐにそう考えるのは、透のくせのようなものだ。さめたあきらめは、自分を守る厚い殻。
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