第2章

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「さて、やりますかぁ!」 秋月とおそろいの紺の作務衣。白い前掛けの腰紐をきゅっと締めて、夏目が気合を入れた。 大ぶりのぐい飲みに湯葉豆腐を作って、昆布出汁の葛をとろりとかける。道明寺粉で作った桜餅の中には甘辛く煮た合鴨を包み、蓬をすり潰した餡をかけるのは盛り付けてから。お造りはギリギリになってからでいいだろう。 「どうです?こんなの」 試しに作った手毬寿司を、夏目は秋月に差し出した。 ちんまりと丸く握った寿司飯を、薄く削いだ刺し身で包む。真鯛の下には青紫蘇を忍ばせて、半透明の白い身の下に緑が透けて見えるのが清々しい。赤い鰤の上には黄身のそぼろを少し乗せて、見立ては菜の花だ。 「きれいだな」 秋月が感心した声を上げる。それでいこうと笑ってみせるその顔が、なんだかやっぱり疲れているようで。少し休んでいてくださいと夏目が言いかけた時、からりと入り口の戸が開いた。 「すみません、まだ・・・・・・」 夏目の声を遮って、秋月が声を上げた。 「葛見!」 入ってきた男が、よう、と手を挙げてみせた。 黒い髪を短く刈った長身。太い眉の精悍な顔立ち。グレイのタートルに黒の皮ジャン。手首に光る腕時計は見るからに高価そうだ。堅気の職についている人間とは、どことなく違う匂いがする。 かすかに眉を顰めた夏目を葛見を呼ばれた男がじろりと一瞥する。夏目が慌てて頭を下げた。 「いつ戻ってきたんだ?」 前掛けで手をぬぐいながら厨房からから出る秋月を、夏目が視線だけで追いかける。 「帰国したのは先週・・・・・・こっちへはさっき着いた」 「親父さんのところへは?」 カウンターに腰掛けた葛見の隣に、秋月も腰をおろす。 「まだ。先にお前の顔を見ようと思ってさ・・・・・・変わりないか?」 葛見がポケットから出した煙草に火をつけて、カウンターの隅に積み上げてたあった、小さな陶器の灰皿に手を伸ばした。 「新しい板前が入ったのか?」 葛見が夏目をじろじろと無遠慮に眺める。 「あ、夏目というんだ。夏目伊吹。こっちは葛見恭介。友人だ」 「ども、ヨロシクお願いします」 秋月に紹介されて夏目が頭を下げる。
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