第2章

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「・・・・・・!なに、してるんですかッ!」 だっと上がり込んだ夏目が葛見の腕に手を伸ばす。と、掴もうとした腕を反対に捻り上げられて、いててと声を上げた。 「何って、なんだよ」 掴んだ夏目の手ごとその身体をぐいと押し返して、葛見がにやりと唇の端で笑う。 「診察だよ。俺は医者だぜ」 「え」 瞬いた夏目が、脇にすとんと腰を下ろした。 「貧血か・・・・・・ちゃんと検査しないと何とも言えないが、おそらく過労だな」 秋月の青い顔を覗き込んだ葛見が言う。額にかかる栗色の前髪をそっと掻きあげる仕草に、夏目のどこかがとくりと波立った。顔を上げて夏目と視線が合った葛見の瞳がすっと細まる。 「病院へ行くぞ」 有無を言わさぬ口調に、秋月が上体を起こした。 「仕事が・・・・・・昼に仕出しを頼まれてる」 そのまま起き上がろうとする秋月の肩を、葛見が掴んで押し戻す。 「キャンセルだ・・・・・・そこの板前にできないんだったらな」 横目を流されて夏目が唇を引き結ぶ。 「―――出来ますよ」 むっとした表情を取り繕えない夏目に、葛見が薄く笑う。 「上出来だ」 さて、と指を伸ばした葛見が開けたままだった秋月の作務衣の前を閉じ、自分が着ていた黒の皮ジャンを羽織わせた。色のない唇に親指で触れて、すいと立ち上がった。 「車を裏に回してくるから、ちょっと待ってろ」 「あの・・・・・・あの人・・・・・・」 遠ざかる葛見の足音。夏目がやっと秋月に声をかけた。 「・・・・・・葛見か?幼馴染だよ。地元の大病院の後継ぎだ」 落ちてくる前髪を掻き上げながら、秋月が夏目に視線を流す。初めて見るその物憂げなまなざしと喉元から覗く鎖骨の窪みに、夏目がなぜかどきりとする。 「あ、それで、な・・・・・・親しげ、だったんですね」 馴れ馴れしい、とはさすがに言えない。 「すまない・・・・・・」 力のない声に、夏目が秋月の脇に膝でにじり寄った。
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