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「俺に謝る事なんかないですけど・・・・・・なんでこんなに具合悪くなるまで我慢してたんですか」
知らず声が詰問調になる。秋月が目を見開いた。
「俺、そんなに頼りないですか?・・・・・・信用ない?」
秋月の肩を掴もうとした手が、果たせずに握りこまれる。秋月の表情が揺れた。
「頼りないとか信用しないとかじゃない・・・・・・俺の性分なんだ」
すまないともう一度言われて夏目が唇を噛む。そのまま沈黙が落ちた。
「・・・・・・秋月さんが言わないんなら、俺の方から言いますから」
夏目が口を開く。
「休んで欲しい時はちゃんと言うし、俺で出来ることがあるときは俺がやります」
秋月さんが嫌だと言ってもやりますと、まるで宣戦布告のように宣言されて。子供のように唇を引き結んだ夏目の顔を見つめる秋月の顔に、戸惑いの色が広がった。
「秋月、立てるか」
戻ってきた葛見が秋月の腕をとる。
「大丈夫だ。一人で歩ける」
「俺、仕出し出来ますから!」
立ち上がった秋月の背中に夏目が言った。
「お昼もお店は開けます。心配いりません」
夏目からは見えない秋月の顔と夏目とを、葛見が交互に見る。
「・・・・・・心配はしてない」
振り向かずに秋月が言った。
はい、と夏目が大きく笑った。その顔を一瞥した葛見が秋月の背に腕を回して行くぞと促した。
裏口から秋月を連れて出ようとした葛見が、ふと路地を見る。と、誰かがさっと隠れる気配がした。そう言えばさっき店に入る時も、角の向こうにパーカーを被った妙なやつがいたなと、と思い出す。
・・・・・・妙なことにならなければいいが、と葛見が思わし気に眉をひそめた。
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>第2話 卯月 に続く
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