第1章

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そこは古い小さな城下町。 ほんの十年も前には町のあちこちに残っていた土蔵や石垣も、今はその数を減らしている。大きく広がっていく道路は町の外へと客足を散らし、再開発の名の元にどんどん新しくなっていく中心部はもはや昔日の面影もない。 繁華街に並ぶのは、横文字の看板。それでもひとつ小路を曲がれば、昔ながらの古い店が暖簾を下げているのを見つける事が出来るだろう。代々続く蕎麦屋に創業は江戸時代だという鰻屋。絵蝋燭が置かれた軒先の隣には可愛らしい飴細工が並べられている。 黒く塗られた板壁もくすんだ古い店並みの連なるその小路は、新しい繁華街よりはずっとひっそりとしていたけれど。それでも城下町の住人達が訪れる足が途絶える事はない。 並んだ柳の木の下を、そこだけは昔のままのように小さな川がせせらぎの音を立てている。 そんな町の片隅、柳小路の一角にひっそりとその店はあった。 「いらっしゃい!」 『和食処 秋月』と白く抜かれた藍染めの暖簾を潜ると、そこはカウンターとテーブルが五つほどの小さな店。漆喰の壁に天井の太い梁が古い民家を思わせた。 「こちらにどうぞ」 物珍しそうに中を見回していた客が声をかけられて振り返った。きれいに磨かれた木のカウンターの内側には、紺の作務衣に白い前掛けの板前が一人。若いなぁ、と呟いてカウンターの端に腰を下ろしたその男もまた、同じぐらい―――二十代半ば―――の若さだ。 「何にします?」 耳のあたりまでの少し茶色がかった真っ直ぐな髪を揺らして、板前が訊ねてくる。 「ええと、とりあえず、ぬる燗・・・・・・お勧めあります?」 東北の春は遅い。三月も半ばを過ぎて陽射しは暖かくなってきたとは言え、日が落ちてからの風はまだ冷たい。 甘口か辛口かと聞かれて、辛口をと青年が答える。
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