44人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・・・・あの」
「はい?」
声をかけられてすぐ脇に立つ秋月を振り返る。髪よりも明るい琥珀色の瞳が見返してきた。
髪の毛、染めてるんじゃないんだなあと見つめ返していると、手を、と困惑した声で言われて。すみません!と握ったままだった指を慌てて離した。
「いいじゃないの、手ぐらい握らせておやりよ」
「そうだよ、減るもんじゃないし」
ね~、と盛り上がる一画を真っ赤になった秋月が睨み付ける。青年が笑いを堪えた顔になった。
「葵ちゃん、鰈は?」
カウンターの老爺が気づいたように声を上げる。あっと秋月が振り返るのを黒髪の青年が押し留めた。
「俺がやりますから、もう少し指を冷やしてて下さい」
え、と見張る琥珀の瞳に黒い瞳が笑いかける。菜箸を取り上げると、焼き網の上の魚をくるりと返した。
「ああ、ちょうどいいみたいですね。ナイスタイミングです!」
焼き上がった柳鰈を染め付けの皿に載せて、カウンターに出した。
「平目はお造りでしたよね」
俎板の上に載ったままだった平目の柵を薄く切っていく馴れた手つきに、秋月は目を見張った。
「お次は?鰹のいいのがあるみたいですけど」
カウンターの中に貼ってあるメモを見て、青年が客に声をかける。
「いいわね、それちょうだい」
「タタキにして、紫蘇と混ぜても美味しいですよ」
「・・・・・・君?」
唖然と見つめる秋月に、青年が悪戯っぽくウィンクを返した。
面白がったシルバー連中が次々と出す注文を全てこなしたその青年は、その後カラオケから流れてきた若い客に寿司まで握ってみせた。週末であるからか客足の途切れる事はなく、結局暖簾を下ろすまで青年はカウンターの中にいた。
「はい、終了っと!」
洗いものを終えた青年に秋月がタオルを差し出した。
「ありがとう、助かった。・・・・・・君、板前なのか?」
え、まぁ、とどこか歯切れ悪く青年が答える。
最初のコメントを投稿しよう!