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「夏目、でいいです」
くん、なんてつけないで下さい、と人懐こい顔で言われて。
「明日から一緒に頑張りましょうね!」
ぐいと伸びを一つして夏目が大きく笑う。ああ、と秋月も笑いを返した。
『和食処 秋月』に腕が良くて男前の板前が入ったことは、すぐに近隣の評判になった。
「葵ちゃんのお店、最近いいねぇ」
「新しい板前がね、腕がいいよ」
今晩また行ってみるかいと路地端で話をする老爺たちの声に、脇を過ぎようとしていた男の足がゆっくりになる。深く被ったパーカーのフード。俯いた顔には濃い色のサングラスをかけている。
「葵ちゃんも一人で大変みたいだったからさ・・・・・・二人になって助かっただろうね」
「ずっと居てくれるといいけどね」
老爺たちは男を気にすることなく話に夢中だ。
「あの板前が来て、葵ちゃんも明るくなったと思わないかい?」
きゅ、と唇をかんで。背中を丸めた男が、足早に去って行った。
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