episode1 席替え

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わたしが書いた小さめの“蒼井”の文字。そう、まぎれもなくわたしだ。 嘘だと言ってほしい。どうしてこうなったの! 周りの女子からの視線が突き刺さって、委縮してしまう。隣になったのがあいつだと思われているんだろうか。ごめんなさい、わたしが片岡くんの隣なんて……! 「隣、よろしくねー」 席に戻る片岡くんに言われて、慌てて会釈する。とてもじゃないけど、よろしくなんて言えない。 全然よろしくしたくない! 全員のくじ引きが終わるのを待っている間、どうにか席を変えてもらえないかと考えたものの、今更言い出す勇気もなかった。 やっぱり目が良くないので、と言ったところでもう決まってしまっているのに、わたしのせいでごちゃごちゃさせたくはない。安部先生のことだから、次まで我慢しろって言うだろうし。 席の移動を遅らせていれば、こっそり誰かと変わってあげられたら良かったのに。って、声をかける勇気もなかったけど。 もうやり直すことはできない。諦めるしかない。 けして片岡くんの隣がイヤだとかそういったことではないんだ。わたしなんかが申し訳ないって思うし、隣で賑やかにされるのは困るってことくらい。 静かに、ひっそりいたいわたしとしては、前みたいな感じでいたかった。ただ、それだけだ。 「はい、荷物だけ持って移動。さっさとやればあと休憩時間にしてやるから」 安部先生の言葉で席を移動してみると、窓の外を見られて、入り込んでくる風が心地いい。 隣の席が片岡くんだということを除けば、とても快適そうな席だった。
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