隣人

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 瑞希はカップをソーサーに戻すと、ひと指し指でカップの縁を撫でた。そこに瑞希の唇と同じ色の口紅が付いていた。 「甘さを楽しめなくなる、か」 「私、なにか可笑しな事云いました」 「そんな事ないわ。美味しい物を美味しく食べる。それを思い出しただけ」  瑞希はそう云うと、コーヒーカップを指先で弾いてみせた。『チーン』という甲高い音が、この狭い部屋の隅々にまで響き渡った。  箱に残されたフルーツタルトパイを「お土産よ」と渡されて、紗香はその夜のお茶会の場を後にした。 「また、お話ししましょう」と云った瑞希は、どこか寂しげに笑っていた。
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