プロローグ

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 元は定食屋だったその店を、親の代から引き継いだ息子夫婦が一大決心をして、イタリア料理店に作り替えた物だった。常連客もそれなりに付いてはいたが、数年前に看板を降ろすと、その建物はいつしか廃屋となっていた。  群れていた若者達も消え、それでも陽が昇るには些か早い時間、一台のタクシーがその駐車場に乗り入れた。私鉄の終電を逃した客をターミナル駅で迎い入れ、繁華街で拾った酔客を送り届けたこの時間は、タクシードライバーにとって休息を取るのに適した時間帯だった。  都心ならいざ知らず、早朝前のこの時間、ベットタウンのこの街を流しても、タクシーに手を上げる者などまずいない。それどころか歩いている人間を見かける事も、皆無に等しかった。
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