プロローグ

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 屋根に取り付けられた社名の入った行灯(あんどん)を消すと、山波 一(やまなみ はじめ)はコンビニで売られているカップコーヒーにストローを刺した。深夜料金に変わる10時少し前、いつも客待ちしている駅から乗せた女が降り際に『良かったら飲んで』と置いていった物だ。  エアコンの吹き出し口に取り付けられたカップホルダーに、置きっぱなしにしていたコーヒーは、それでも未だに冷たいままだ。梅雨のこの時期、雨は降っていなかったがじっとりとした空気のなか、エアコンを入れずに客を乗せる訳にはいかなかったからだ。  今宵最後となった繁華街で拾った酔客は、口数の多い中年男。無視する訳にもいかず、適当に話しを合わせていたお陰で喉が渇いていた。ストローを吸い上げたコーヒーは、心地よく喉の奥へと広がっていく。
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