いのち の 色

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 病院の前には、古い本屋さんがあった。  いつも、開いているのかわからないような古い本屋。 「すみません」  美佐子は、サッシの引き戸を開けようとした。  でも、硬くなって、なかなか開かない。  そのとき、戸の間から、ほそく骨が浮きでたような手が出てきた。  美佐子は、ビクッとなった。  その手は、引き戸を開けてくれた。 「いらっしゃい」  店の中で、白いあごヒゲをたくわえた、おじいさんがほほえんでいた。  美佐子は、店の外で、驚いて立っていた。 「何か、探しものかね」  おじいさんは、笑顔で美佐子を店の中に招き入れた。  店の中は、きれいに本が並んでいた。  きれいに掃除されていた。  毎日、お店が開いているように、きれいに本が並べられていた。 「あの。宮沢賢治のグス…」  お父さんに、ああはいったが、美佐子は本の名前が出てこなかった。 「グスコーブドリの伝記かね」  おじいさんが、優しそうに笑っていた。 「確か、この辺にあったんだが」  おじいさんが、本棚の上の方の棚をあさっていた。 「あった、あった」  おじいさんが「宮沢賢治全集」と書かれた本を差し出した。 「この中にかいてあるよ」  おじいさんが、笑顔で本を差しだした。
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