いのち の 色

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 本を握るおじいさんの、ほそく骨が浮きでたような手が見えた。  美佐子はだまって、差し出された本を見ていた。  その手を見ていた。 「何か、心配事があるね」  おじいさんが、優しく、優しく声をかけた。  優しく、優しく、美佐子の頭をなでてくれた。  その瞬間、美佐子は、こらえきれなくなった。  怖くなった何かが、わかった。  今まで必死に、絵を描いてごまかしていたものが、抑えきれなくなった。 「お父さんが、死んじゃう」  美佐子は泣き出した。  泣きながら、繰り返した。 「お父さんが病気で。入院して。お父さんがいなくなっちゃう」  美佐子は、涙が止められなくなった。  おじいさんは、優しく頭をなでていてくれた。  泣いている美佐子の声を聞きながら、優しく頭をなでていてくれた。  おじいさんは、店の奥からイスを出してきた。 「さぁ。お座り」  おじいさんは、美佐子を座らせると、また、やさしく頭をなでてくれた。
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