いのち の 色

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「いのちとは、なんだと思うね」  美佐子は、突然、きかれて答えられなかった。 「いのちも、絵と同じじゃよ」  おじいさんは、優しい目で美佐子を見つめていた。 「いろいろな色があるから、生きていけるんだよ」  おじいさんの、透きとおる優しい目がそこにあった。 「毎日、ご飯を食べる。お米や、野菜や、お肉を食べる。それはひとつひとつもいのちで、そのいのちの色をもらっているんじゃ。楽しいことや、苦しいこと、つらいことがある。でも、それも、いのちの色となって、お嬢ちゃんを形つくっているんじゃ。お嬢ちゃんを、素晴らしい絵にしてくれるんじゃ」  おじいさんの優しい目に吸い込まれるように、美佐子はきいていた。 「そして、お嬢ちゃんという素晴らしい絵は、誰かをかならず、幸せにするんじゃよ」 「うん」  美佐子は、なぜだか、素直にうなずくことができた。 「お父さんのことは大変じゃろうが、大切な色をもらっていることを忘れてはいかん。お父さんもいっしょうけんめい、お嬢ちゃんに大切な色を渡しているのじゃよ。だから、お嬢ちゃんもお父さんにいっぱい会いに行って、大切な色を渡しておあげ。幸せな絵を描くためには、たくさんの色が必要だからね」  おじいさんは宮沢賢治全集を紙袋に入れると、美佐子に差し出した。 「お金はいいから、これは持っていきなさい」 「でも」 「表紙が汚れているから、売り物にはならんのだよ」  おじいさんは、笑った。  美佐子は知っていた。  その本は、とてもきれいだった。
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