それでも湯気は暖かい。

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10分後には荷物をまとめて赤ちゃんを背負い、家を出た。 その日はホテルに泊まり、翌日、職場の先輩の計らいで病院近くでアパートを借りる事が出来た。 こういう時、職場内の人間関係の良好さと、理解力にとてもありがたみを感じる。 様々な人が出入りする、“病院”と言う少し特殊な環境。 先輩を始め皆、家庭環境の善し悪しに寛大であり、スルリと受け流し大人の対応する、あるいは先輩の様に親身な対応が出来るのだ。 すぐさま、顔見知りの女性の先生が内々に私の身体を診察し、虐待の疑いありとの診断書を書いてくれた。 警察へと足を運んだ帰り道に赤ちゃん用品の買い足し目的で寄ったドラッグストアで、一緒にポタージュスープの素を買った。 アパートに帰り、やかんでお湯を沸かしマグカップに注ぎ、スプーンでかき混ぜる。 お母さんの味をそれで再現するのは難しいけれど、それでも湯気は暖かく、今の私にとって母の笑顔の記憶を辿るには充分だった。 もう…こりごりだな、“男”は。 立ち上る湯気に映し出された母にそう愚痴をこぼす。 「あなたは大丈夫よ」 母はそう笑ってくれた。
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