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ほどなくして中から人が近づいて来る足音。
ドアが向こうからガチャッと開いた時、アタチはもうペコンと頭を下げていた。
「あのあのっ! ごめんなさいプギ、毛タマがお庭に入っちゃったんでつ! 取らせてくだたいーー!」
「え……、コブタがしゃべってる……?」
その柔らかい声に顔を上げた瞬間、アタチの脳天からシッポに向かってピシャーーン! と雷のような衝撃が走った。
(……嘘……でしょ……プギ……)
「毛タマってもしかしてコレ? さっき庭から拾ってきたんだけど」
細められた黒目がちな瞳。少年のような、それでいてどこか落ち着いた風情のイケメン……なんてことよりも!
(赤壁の決戦のリョウさま……?)
長い黒髪を無造作に頭のてっぺんで束ね、菜箸みたいな長い棒で留めている。金の刺繍が施された着物は、派手なオレンジ色。
あのテレビの諸葛亮孔明の若いころを見ているような、そんなパラレルトリップな感覚。
「はい、どうぞ」
毛タマを優しく差し出され、アタチはトリップしたままホワ~っと前足を上げた。
「花びらの形だ……君のヒヅメ。可愛いね」
「プ……!」
アタチの顔もお耳もヒヅメも、ハートまでもがパアッとピンク色に塗り替えられていく。
パタンとドアが閉められても、アタチはしばらく前足に毛タマを挟んだまま立ち尽くしていた……。
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