彦星は流星の如く突然に

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文月七香(ふみづきなのか)さん。ずっと遠くから貴女を見てました。どうか僕と付き合って下さい!」  振り向き様に目があったのは、歳は近けど見知らぬ男。当然七香は断る事にした。 「いや無」 「無理とは言わせません! 何故なら『文月七香と付き合いたい』と短冊に書いたので。もし断れば短冊に願いを書いても決して叶うわけじゃないんだと皆さぞやがっかりする事でしょう!」  男の声は周囲の視線を集めていた。中には子供の目もある。 「僕の願い、叶えてくれますね?」  --姑息。七香が男に抱いた感情はそれに尽きた。 「……いいわ」 「やった! 七夕万歳!」 「但し、今日だけよ」  万歳ポーズのまま固まる男。 「あら不服? 織姫と彦星だって明日からまた離れ離れよ」 「……いえ、十分です。今日中に僕の事を好きにさせますから」 「はい?」 「ダメなら来年。来年がダメなら再来年の七夕があります! はーっはっは!」  また一年間ずっと遠くから私を見続ける気なのか。この男。  未だ名も知らぬ彦星の高笑いに、七香は失笑するしかなかった。
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