ファンシー

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「おい、お客さん!もう終わりだよ」 眼を開けると空が青みがかっていた。それから少し怒り顔な運転手が僕の肩を揺らしている。 「今、何時ですか?」 「五時十分」 「朝か・・・・・・」 「もう六時間ぐらい前にみんな降りたんだよ。だがお前さんだけぐっすり眠っちまってるから起こそうにもねえ」 「すいません。ありがとうございました」 僕はとりあえずバスを降りてご飯を食べようと思った。腸が萎縮の限界に達していた。 肥満で洋ナシ型のお尻をした女がスープと豚足を持ってきた。まずそうだ。だが人間は空腹には勝てない。僕は五分で完食した。それから煙草を吸った。 「あんた、大丈夫?眼が死んでるみたい」 見上げるとさっきの女がコーヒーの注ぎ足しをしたがっていた。とっさに質問する。 「君さ、夢と正夢の区別ってついたりする?」 「夢と正夢?」 「そう」 太った女は宙を見つめて考えていた。「頭が悟るというか、感じるものでしょ?きっと」 「なるほど……ありがとう」 「どういたしまして。コーヒーのお替り自由だから」僕はうなずいて再び空想に耽った。 僕はこの店が気に入った。今日で十日目。コーヒーのお替りを頼むと必ず洋ナシ型のお尻をした彼女が来る。きっと僕に気があるのだ。そんな状況を微かに楽しむのも店に足を出す目的の一つとなっていた。だが異変は翌日に起きた。 十一日目に店に入ると彼女の姿がない。他の店員に彼女はどうしたのかと尋ねると昨日の帰り道にチンピラに絡まれて顔を散々殴られたそうだから今は病院にいると言った。 僕は当然心配した。また戻って働くことを切に願った。
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