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暫く互いの出方を見るかと思ったが、彼女はいきなり核心を突いてきた。
「ヴァンパイア狩りですが、今は未だ結構です」
「…何故ですか」
「同族狩りが出ているからです。彼等はやがて同族狩りで激減するでしょう。それまでは、被害者を出さないように、結界や魔除け等の強化に協力していただきたい」
「確かにこのまま行けば同族狩りによってヴァンパイアの数は減るでしょう。しかし、それまでは街の人々は怯えて暮らします。魔除けも、完全ではありません」
「出来るだけで構いません。それに、刀の使い過ぎで、いざという時に切れないと困りますから」
緩く、優しく笑う彼女に、僕は吐き気がした。
彼女は僕を刀に例え、毎日の様にヴァンパイア狩りに出ていると、いざという時、つまり、最後の一人を取り逃がしては困ると言っているのだ。
そのヴァンパイア撲滅の精神は、とても素晴らしい。他人さえ利用するその心は、悪魔に引けを取らないのでは無いのか。
全てはこの街に住む民の為。
果てしない民主主義の思考に、吐き気がする。
「…わかりました」
「高貴な神父様にご理解して頂き、光栄です」
悠然と微笑む彼女は、蝋人形の様な不気味さがあった。
色の無い蝋の肌に、熔けかけた様な朱の髪と瞳。きっと彼女は、拳銃に込められる鉛の様に冷たいのだろう。
「全てが終わるまで、私の屋敷に居ては如何ですか?」
「いえ、神父は主と共に、教会に身を置くものですので」
「そうですか。それは残念です」
彼女と同じ空間に居るなんて、自殺行為も甚だしい。
僕は尤もらしい理由を付けて、辞退する。
窓から差し込む光を受けた彼女は、民を愛し見守る天使か、一時の気まぐれで遊ぶ悪魔か。
見極める術も、切り札も、今は無い。
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